
「このガラスのゆらぎがいいのです」
「ゆらぎ・・ですか?」
「この建物の改修を担当した建築家の方が言うのですよ」
「ガラスって建設当時のものですよね」
「ええ、そうです。大正時代に作られたガラスです。今の製品に比べれば透過率も均一性も良くないのですが、それがかえっていい味が出ていると思いませんか?」
「なるほど、面白いですね。でも分るような気がします」

「本当は全部この時代のガラスを使って改修したかったのですが、さすがにそれは無理で、展示室と講堂の2箇所だけ。でもこのガラス越しのゆらぎ方がなんとも言えません。みなさんには意外と好評なんです」
先日、奥州市に誕生した宇宙遊学館の撮影に行ったときに市の担当の方から伺ったお話。
すでに社長ブログでもご紹介した弊社が展示を担当した奥州宇宙遊学館。この建物はもともとは大正時代に建設された水沢緯度観測所・旧本館です。
老朽化が進み、解体が決定されていた建物を市が買い取り、耐震補強や往時の雰囲気を残しながら改修工事を行い、内部には展示室やシアター、ワークショップルームなどを新設しました。

元観測所という特性と宮沢賢治のふるさとイーハトーブの地理を生かし、宇宙や天文、賢治の世界観との関わりなどを次世代へ伝える施設として新たに生まれ変わりました。
大正ロマンを感じる内外装デザインや独特のスケール感、目に優しい色合いなど。現代の建築に慣れた目にはとても新鮮に映りました。
中でも往時の雰囲気そのままの廊下や階段室は特筆もの。階上へと足を踏み入れるとき、軽くギシギシと音を立てる階段には思わずうわっと声を上げました。
展示空間もそのイメージを考慮した、あたかも研究室のような雰囲気を持つ落ち着いた空間になっています。北の地、奥州市に素適な場所が誕生しました。

ちなみにこれらの写真は建物と同じ時代に生まれたレンズを使ってデジタル撮影したものです。宇宙遊学館もその当時の魂を残しながら、現代の技術で新たなものに生まれ変わりました。
カメラやレンズの世界も同じようなことがあります。この場所にふさわしいのでは?と、あえて持参したのは同じ時代の「ゆらぎ」を持つ齢70のとても古いレンズです。これも現代のデジタル技術で当時の空気感を残しながら生き返りました。
ガラスの「ゆらぎ」のお話を伺ったときに、たまたまですがこのレンズを持参したこと。目には見えない何か通じるものを感じました。
お久しぶりのSWCでした。