
近年、空間づくりの現場では「没入感」という言葉が頻繁に語られるようになりました。
没入感とは「目の前のモノやコトだけに意識が集中している状態」。簡単に言うと、無我夢中になるとか、没頭するとか、そんな感覚です。
今回ご紹介するのは、ちょっと意外な空間での没入体験です。体験者は入社4年目でクリエイティブ部門に所属する、河本さん。体験の舞台となったのは「かまくら」。雪を積み上げて小さな部屋のように仕立てた、あの「かまくら」です。
コラム「感動ノート」について

ムラヤマでは「感性豊かな社員」育成の一環として、毎年、「感動体験支援施策」を実施しています。本コラムでは、この施策を利用した社員のレポートの中から気になる感動体験をピックアップ。体験者とともに様々な心の動きや、新たな感動を生み出すためのヒントなどを探っていきます。
感動体験支援施策の詳しい内容については〈感動ノート page.00〉からどうぞ。

憧れの「かまくら」を求めて真冬の東北へ
寒く暗い冬の夜に、ぼんやりと浮かぶかまくら。
小さな間口から温かな光が漏れ、中では子供たちが膝を寄せ合って餅を焼く。
そんな昔話のような光景に憧れた人は、きっと多いはず。子どもの頃、なけなしの雪を集めてミニチュアのかまくらを作った、なんて人もいるかもしれません。河本さんも、そんな憧れから今回の体験旅行を計画したそうです。
冬を満喫したい!
どうせなら思いっきり寒いところへ行こう!
だったら東北だ!
今回の体験旅行は、そんなシンプルな発想から生まれました。
目的地に選んだのは、岩手県。
「旅の情報を集める中でかまくらの写真を目にして『ここで鍋を食べたら最高なのでは!?』と思ったのがきっかけです。調べてみると、岩手のある場所でかまくらを体験ができることがわかったんです。しかも、その地域は過去に本州での最低気温を記録したことがあるそうで、願い通りの場所でした」
河本さんは、憧れのかまくらを目指して友達とともに岩手県へ。
目的地に到着すると、そこには幻想的な風景が広がっていました。
「かまくらが10個くらい並んでいて、まるでおとぎ話のワンシーンみたいでした。そこで食べる海鮮鍋はやっぱり最高で、普段あまり飲まないビールも注文してしまいました(笑)」
昼間にわんこそばをおなか一杯食べていたにもかかわらず、かまくらの中で食べる鍋は格別で、しっかり完食したそうです。

演出装置としての「かまくら」
東北の海の幸の味もさることながら、「周囲の寒さと暖かな光、熱々の鍋というシチュエーションが非日常感と感動に繋がったように思います」と河本さんは当時を振り返ります。また、空間演出的にも、かまくらには心に深く作用する要素があったとのこと。
「内部の高さは120~130cmほどで、広さは大人2人と炬燵がなんとか入るくらい。灯りは暖色系の小さな電灯一つとストーブの光だけ。とても静かで、鍋がグツグツ煮える音がすごく印象的でした。空間的にはすごくシンプルで、それがいわゆる『没入感』に繋がっていたのではないかと思います」
空間も光も音も極めて限られた状態だからこそ体験への集中度が高まる。かまくらでは視覚や聴覚などの外部刺激がミニマムになることで体験者がその空間に没頭しやすくなっていたのでしょう。
シンプルだからこそ非日常が際立つ
没入型の体験というとシアター型の大掛かりな演出やハイテクなVR世界を想像しがちです。でも、かまくらのようなシンプルな空間でも没入体験は味わえる。むしろ余計なものがないミニマムな空間だからこそ、非日常の輪郭がくっきりと浮かび上がってくる。このことは没入体験づくりのヒントになるかもしれません。
「ミニマムでシンプルな空間づくりって一番難しいんですよね。要素が少ないからこそ一つひとつの意味が重要で、何を削り、何を残すかのバランスが問われます」
現在、河本さんはとあるプロジェクトで、極めてシンプルな空間演出に取り組んでいるそうです。要素を削ぎ落すことによって印象を強める「引き算」の演出は、クリエイターにとって非常に勇気がいることで、緻密な構成力や理解力が求められます。今回のかまくら体験で得た感覚が、どのような空間づくりに繋がっていくのかとても楽しみです。
